初等プログラミング教育の最先端・英国の教育とは?


日本では、2020年度から小学校のプログラミング教育が必修化されましたが、海外では、もっと早い時期からプログラミング教育の導入が行われています。


プログラミング教育は選択制であったり、小学生ではなく、中学、高校から必修化していたりとそれぞれの国によって違うようですが、”小学校+必修化”に注目して調べてみると 英国は5年以上も日本に先行して小学校でプログラミング教育を必修化していることがわかりました。


英国では、プログラミング教育として、どのようなことを目標に、何を学ぶのでしょうか?

こちらでは、下記の資料をもとに、世界に先立ってICT・プログラミング教育を進めている英国の教育事情についてまとめています。


英国でComputingを新設した目的と目標


英国では、 技術開発の最前線で若い人を働けるようにするため、つまり、人材育成のため、従来のICT教育をComputingに変更し、 2014年9月より新教科Computingを実施しました。


Computingは、

1. コンピューターサイエンス(CS)(情報の科学的な理解)
2. 情報技術(IT)(情報活用の実践力)
3. デジタルリテラシー(DL)(情報社会に参画する態度)


の3つの柱で構成されています。


1. コンピューターサイエンス(CS)(情報の科学的な理解)
情報と計算の理論的基礎、及びそのコンピュータ上への実装と応用に関する研究分野のこと。


2. 情報技術(IT)(情報活用の実践力)
情報を取得、加工、保存、伝送するための科学技術。特に、電気、電子、磁気、電磁波などの物理現象や法則を応用したコンピュータなどの機械や器具、および、その内部で動作するコンピュータプログラム(ソフトウェア)を用いて情報を扱う技術のこと。


3. デジタルリテラシー(DL)(情報社会に参画する態度)
リテラシーとは、読み書きの能力・識字・識字率・与えられた材料から必要な情報を引き出して活用する能力、応用力のことです。それに“デジタル”が付くと、インターネットを中心にデジタル情報や通信について、それらを活用するパソコンやスマートホンなどの機器やアプリについて知識を持ち、利用する能力のことを指すことになります。例えば、通信アプリが正しく使えないと、学校や所属団体からの連絡を受け損なったり、伝えそこなったり、間違って個人情報を拡散させてしまったり、犯罪に巻き込まれてしまったり、いろいろなトラブルが考えられますね。つまり、小学生に対するデジタルリテラシーとは、インターネットを安全に正しく、かつ、便利に使える能力ということになりそうです。



Computingは、「 生徒たちがコンピュテーショナルシンキングと創造性を用いて、世界を理解し変革していく」ことを目標としたカリキュラムです。もともと義務教育としてICT教育が盛り込まれていたにも関わらず、Computingを新設し、アルゴリズムの理解やプログラミング言語の学習を取り入れることによってコンピューターサイエンスにさらに一歩踏み込んだ内容となっているようです。



英国の新教科Computing:目標達成への教育計画


ナショナルカリキュラムでは、英国の新教科Computingについて、以下のように記されています。英国の『ナショナルカリキュラム』は、日本の『学習指導要領』にあたります。


<KeyStage1>5~6歳
<KeyStage2>7歳~10歳
<KeyStage3>11歳~13歳
英国では、5~11歳まではPrimarySchool(小学校)、11~16歳または11~18歳まではSecondarySchool(中等教育学校)に通う

<KeyStage1>
⃝アルゴリズムとは何かを理解すること。すなわち、アルゴリズムがデジタルデバイス上でプログラムとしてどのように実行されるか。アルゴリズムはプログラムが正確かつ明確な指示に従い実行するものであるということ。

⃝簡単なプログラム作成とデバッグをすること。

⃝論理的推論による、簡単なプログラムの挙動予測をすること。

⃝目的を持って情報技術を利用し、デジタルコンテンツを創り、整理し、保存し、操作し、呼び出し、検索すること。

⃝学校外での一般的な情報技術の利用についての認識をすること。

⃝情報技術を安全に節度を持って個人情報を守りながら利用すること。インターネットや他のオンラインテクノロジーにおけるコンテンツや接触に関して懸念がある際に、どこに助けや支援を求めればよいかを確認すること。


<KeyStage2>
⃝物理システムのコントロールやシミュレーションを含めた、特定の目的を達成するためのプログラムの設計や作成、デバッグをすること。また、それらのプログラムを小さなパーツに分解することで課題を解決すること。

⃝プログラムにシーケンス(順次)、選択、繰り返しを使用すること。また、変数や様々な形式の入出力を扱うこと。

⃝論理的推論により、どのようにしていくつかの簡単なアルゴリズムが動くかを説明し、またアルゴリズムやプログラムにおけるエラーを探し出し、訂正すること。

⃝インターネットを含むコンピュータネットワークを理解すること。また、インターネットがどのようにして、world wide webのような複雑なサービスや、コミュニケーション、コラボレーションの機会を提供できるのかを理解すること。

⃝検索技術を効果的に利用すること。検索結果がどのようにして選ばれ、ランク付けされているのかを的確に認識し、デジタルコンテンツを的確に評価する判断力を持つこと。

⃝様々なデジタルデバイスを用いて、インターネットサービスや様々な種類のソフトウェアを選択し、単独、あるいは組み合わせて使用することで、データや情報の収集・分析・評価・発表等、与えられた目的を達成するために様々なプログラムやシステム、コンテンツを創り上げること。

⃝情報技術を安全に節度と責任を持って利用すること。やってよいこと/やってはいけないことを認識すること。コンテンツや接触における懸念を報告する様々な手段を確認すること。


<KeyStage3>
⃝現実世界の課題や物理システムの状態やふるまいをあらわすコンピュータモデルを設計、利用、評価すること。

⃝"コンピュテーショナルシンキング"を反映させた、いくつかの重要なアルゴリズム(例:ソートや検索に関するもの)を理解すること。論理的推論により、同じ課題に対する異なるアルゴリズムの有用性を比較すること。

⃝複数のプログラミング言語(うち少なくとも一つはテキストベース)を使用し、様々な計算問題を解決すること。データ構造(例:リスト、テーブル、配列)を適切に利用すること。手続きや関数を利用するモジュールプログラムを設計、構築すること。

⃝簡単なブール論理(例:AND、OR、NOT)と、それらを使用した回路やプログラムを理解すること。数値が2進数ではどのように置き換えられ、どのようにして2進数で簡単な演算が実行されるのかを理解すること(例:2進数の足し算、2進数と10進数の変換)。

⃝コンピュータシステムを構成するハードウェア及びソフトウェアコンポーネントを理解し、そのコンポーネント同士や他システムとの間でどのように情報をやりとりしているのかを理解すること。

⃝命令がコンピュータシステム内でどのように蓄積、実行されるのかを理解すること。テキストデータや音声データ、画像データといった様々な形式のデータが、2進数の形式でどのようにデジタル的に置き換えられ、処理されるのかを理解すること。

⃝様々なアプリケーションの利用、組み合せを伴う、創造的なプロジェクトに取り組み、積極的に多様なデバイスを横断的に使用し、データを収集・分析し、既知のユーザーのニーズに合致した、挑戦的な目標を達成すること。

⃝信頼性やデザイン、使い勝手に配慮した、特定のユーザーのためのデジタル生成物(コンテンツ)の創造及び再利用、修正、転用をすること。

⃝オンラインIDや個人情報を守り、情報技術を安全にかつ節度と責任を持って確実な方法で利用する様々な手段を理解すること。不適切なコンテンツや接触、行為を認識し、懸念を報告するすべを知ること。

日本の小学生は6~12歳までですので、英国のレベルを目指すなら、最低でも<KeyStage1>から<KeyStage2>の内容を小学校の間に学習しなければならないことになります。


難しい単語がたくさん出てくるので、一見英国の方が高度なことをしているようにも思えますが、日本の小学校の学習指導要領や指導の手引きなどの資料を調べた限りでは、大まかに比較すると 日本の小学校でも英国と同等の教育が行われるようです。


日本の文部科学省が新学習指導要領を導入するにあたっては、当然海外の事情を参考にしているでしょうから、当然と言えば当然なのかもしれません。


ただし、厳密に比較すると、日本で<KeyStage1>相当の教育が開始する時期は英国と比較すると遅いようです。この開始時期が遅いことで日本が遅れているという印象を受けますが、これは、日本ではローマ字の勉強を小学校3年生で行うという事情があるからではないかと思います。


開始時期が遅くなるということは、学習期間が短くなるということです。大人がいくら子供たちに<KeyStage2>相当の内容を小学校6年生までに学習させようとしても理解するのは難しい子供も多いかもしれません。その一方で、興味のある子、学習意欲の高い子供たちであれば、日本の小学生でも<KeyStage2>は十分に、さらに<KeyStage3>まで踏み込んだ内容であっても学習可能な気がします。


以上は、私の個人的な考察と印象なのですが、実際のところはどうなのでしょうか?ICT/プログラミング教育には、テストもなく通知表などで評価されることもありませんので、実際のところ子供たちがどこまで理解しているのか、どのように変化していくのかについて結果が出るのはもう少し先のことになりそうです。


英国の新教科Computingの指導状況


英国は5年以上も日本に先行して小学校でプログラミング教育を必修化しています。日本と英国で教育計画が同じであっても、実際の現場はどうなのか、英国と日本の小学生にはそれほど大きな差が生まれているのか気になるところです。資料をもとに調べてみました。


英国では、現在、ICT教育を担当していた先生がComputingを引き継いで教えているそうです。というのも、イギリス政府は、Computing担当教員を増やす予定にしていたにもかかわらず、2012~2017年の期間中には、目標値の68%しか採用できなかったためです。


また、中等学校教師のアンケート結果をまとめたところ、“初歩のComputingカリキュラムを教えられる自信がある”と答えた割合が、たった44%にとどまったということがわかりました。初歩のカリキュラムは、それほどコンピュータサイエンスが盛り込まれた内容ではないにも関わらず自信がないと人が多いということは、 人材不足が深刻な問題と言えそうですね。人材不足が原因で、Computingを算数や理科の先生が担当する場合もあるということです。

英国では、5~11歳まではPrimarySchool(小学校)、11~16歳または11~18歳まではSecondarySchool(中等教育学校)に通う。


下記は、宮崎教育大学の准教授の先生が英国の小学校2校を視察した時の様子です。参考資料をもとに私の方で要約しています。

英国の小学校では、全教室に電子黒板とスピーカが配置され全教室にWi-Fiが入る状況。各教室にはデスクトップパソコン常備、コンピュータ教室も整備してあり、教室壁面にはデスクトップPCが20台、教室中心部にはノートパソコンが10台ほど。タブレット端末を用いた指導も積極的に推進されている。
ICT教育環境が整っていることがうかがえます。


教師が自作した教師用デジタル教科書と無料のオンライン教材を用いて指導しており、学習時間としては、1週間に一コマ(45分~1時間)をComputingにあてている場合が多い。プログラミング学習では主にScratchを使用している他、Bee-BotやLightbotも活用されている。
教科書や学習時間の自由度があり、 学校や教師個人の裁量によるところが大きいようです。また、国語や算数などの 基礎教科を比較するとComputingの学習時間は短いようです


視察した小学校の具体的な学習内容は下記の通りです。

第1学年:電子絵本の作成にPurple Mesh(コンピューティングカリキュラムを支援する英国の無料ウェブサイト)等を使い、イラスト、3D画像、アニメーションを入れ、テーマについて説明させる。


第2学年:BBCによるナイチンゲールのコンテンツ等を利用し調査の学習をする。この学年からChildnet.com(子供達が安心して使えるオンライン環境の構築を支援する英国の非営利団体(Registeredcharity)のサイト。親、養護者、教育者向けの情報に加え、3~18歳の子供達向けのプログラムを実施)を利用し情報モラル教育が始められる。


第3学年:Scratch(ビジュアル型プログラミング言語のひとつ)によるデバッグを中心にしたプログラミング学習が始まる。


第4学年:Scratchで学習ゲームを作成する。情報編集技術としてWikipediaの編集を扱っている。また、CodeAcademy(ブラウザ上で様々なプログラミング言語を体系的に学習できるウェブサービス)を利用してHTMLを学習させる。


第5学年:Edublogs等でブログの方法・作法を学び、CryptoClub等で暗号化を学習し、Morse Code Converter等を使用し符号化・復号化演習を行う。
 

第6学年:Code AcademyでPythonを学び、AppShedで、スマートフォン向けアプリを作成する。


暗号化について勉強したり、アプリを作成したりなど、 第5学年、第6学年になると本格的なプログラミングが開始されています。視察した学校は、2校だけなので英国の他の学校がどうなのか気になるところではありますが、日本に比べて非常に進んでいるという印象を受けます。日本の中にも進んだ教育をしている地域や学校があるのかもしれませんが、少なくとも、うちの子の学校で受けている教育内容と比較する限り、ここまで進んだ教育はされてないようです。


プログラマーのお父さんによると「英国で小学生がHTMLを学んだり、Pythonでアプリを作っているなんて驚き」ではあるものの「難しいけど、小学生でもやろうと思えば可能」との感想でした。確かに、子供たちが電子機器を使う能力、吸収の速さには目を見張るものがあり、大人が到底かなうものではありません。これから、パソコン・プログラミング教育によってどんどん興味を持ってくれれば、大人が思っている以上にその能力を発揮してくれるかもしれません。


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「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議への提出資料諸外国におけるデジタル教科書・教材の活用について
諸外国のプログラミング教育を含む情報教育カリキュラムに関する調査-英国、オーストラリア、米国を中心として-†日本教育工学会論文誌40(3)、197-208、2016
日米英の情報教育政策等から考察する将来を見据えたIT人材育成について初等中等教育におけるICT教育を中心に
諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究 (文部科学省)
After the reboot:computing education in UK schools